FROM SCRATCH
vol.07 | 2024 | January

[GUEST COLUMN]  頑張れVEJ

 VEJスタッフから「事務所の敷地にタケノコが生えているから一緒に掘らないか」というお誘いを受けたのは、2021年の4月だった。新型コロナウイルスの感染拡大により3度目の緊急事態宣言が発出されようとしていた時期である。

 かなり興味は惹かれるけれど、敷地のタケノコを勝手に掘って大丈夫なのだろうか。彼らのオフィスは自社ビルではないはずだし、僕なんてVEJの社員ですらない。「不法侵入」とか「盗掘」とか、あまり穏やかでない言葉が脳裏をかすめる。

 不安になって状況を聞いてみたら「いっぱい生えてきて管理人さんも困ってるみたいで、ぜひ好きに掘ってくれと言われた」という返事がきた。それならたぶん問題ないだろう。近所でスコップを購入し、VEJへ向かった。ライブの中止や延期が相次いでいて、なにしろ時間はふんだんにあったのだ。
 到着してみると、そこは思ったよりもこじんまりとした竹林だった。だが、たしかにタケノコはあちこちから顔を出していた。

 僕は地面に荷物を放り投げ、慌ててタケノコを掘った。明らかに興奮していた。狩猟採集という行為には、人間の本能的な何かを刺激する力があるのかもしれない。

 目についたタケノコをひとまず掘り切った頃には、靴も服も泥だらけになっていた。山積みになったタケノコを見ると、普段あまり経験することのないタイプの達成感を覚えた。

 念のため伝えておくが、これはVEJ山梨支社の話ではない。下北沢駅から歩いて8分、という好立地にある世田谷本社での出来事なのだ。

 それ以来、春になると僕はVEJのオフィスを足繁く訪れ、タケノコを掘っている。3年で100本以上は掘ったのではないだろうか。掘れば掘るほど技術も向上してくる。穂先の向きを見るだけで、地下茎がどちらの方向に生えているかわかるようになってしまった。

 掘り立てのタケノコをリュックサックに詰め込んだら、一目散に帰宅する。アク抜きは早ければ早いほどいい。下処理をしてから、水を張った大鍋へ米ぬかと一緒に投入して火にかける。1~2時間ゆでたのち、ひと晩置く。

 アクが抜ければ、あとは食べるだけである。炊き込みご飯、天ぷら、木の芽和え、若竹煮、バター炒め、青椒肉絲、酢豚、インドカレー、タイカレー、ネパールカレー。あらゆるタケノコ料理を作り、どんどん胃に収めていく。

 タケノコのストックがなくなってきたら、また掘りに出かける。4月の頭からゴールデンウィークぐらいまで断続的に生えてくるので、その1ヶ月間は食卓にタケノコが並び続ける。

 去年、VEJの中で最も出勤日数が多そうな「ダイゴさん」という方とLINEの連絡先を交換した。もちろんタケノコのためだ。タケノコのシーズンには数日おきに連絡を取り、生育状況を確認する。

 今年の春には、とうとうダイゴさんから「毎回スコップを持ってくるのも大変そうだから、オフィスに置いておきます?」という声がかかった。ずっとそれを待っていたのだ。いくらなんでも「すみません、またすぐ来るんでスコップとゴム長靴をキープしといてくれないすかね」と自分からは言い出せなかった。そのぐらいの奥ゆかしさはあるのだ。

 これからも、毎年タケノコを掘りたい。だからVEJにはずっと安定した経営を続けてほしい。でも、あまりにも会社が成長しすぎて新しい社屋に移転されるのも困るので、そこそこ頑張ってもらいたい。

 有限会社ヴィジュアル・アンド・エコー・ジャパンを応援しています。

ユザーン

Tabla player

インドの楽器タブラを叩く人。VEJ との親交は2010年、rei harakamiとのコラボレーション曲「川越ランデヴー」の配信リリースをキッカケに始まる。その後もオフィシャルサイトの制作やVEJ 主催イベントへの出演など、しばしば交流を深めている。