アプリ開発へチャレンジ。
「ワンタップでビデオ通話ができるアプリを作りはじめたんです」と、お声がけくださったのはアウトリーチ・ソリュージョンズ株式会社の渡辺社長でした。
「私たちには当たり前になってきたビデオ通話ですが、高齢者のようにスマホに慣れていない方にはまだまだ身近なツールになっていない。もちろんZoomやLINEなどさまざまなビデオ通話アプリがありますが、既存のビデオ通話アプリを利用するには、アカウント作成、通話スケジュール作成、通話開始操作など、実は高齢者にとって高いハードルがいくつもあるんです。でも、画面をワンタップで通話できればもっと使える人が増えるんです」と話は続きました。
すぐに、強く共感することができました。
両親、おじいちゃん、おばあちゃんが、スマホやタブレットの使い方を毎度忘れて、何度も同じ操作の説明をした経験がみなさんもあると思います。私もそのひとりだったからです。
スマホやタブレットに慣れていない方にも「離れたところに住んでいる家族の様子が知りたい」「コロナで会えない仲間やお医者さんなどとマスクなしで話がしたい」などなどビデオ通話が必要なシーンはたくさんあります。自分ごととして、このアプリができたらいいなぁと素直に思えました。
このアプリだけでなくアウトリーチ・ソリューションズさんにはいくつものプロジェクトの構想があり、開発体制を検討されていました。その中で「figma」を活用したシームレスな開発フローも検討されていました。
VEJもソリューションを生み出すチームの一翼を担いたい。新しいチームづくりや開発にチャレンジしたい。そんな思いが重なり、このワンタップビデオ通話アプリ「スグニー(sugnee)」開発に手をあげさせてもらうことにしました。
良いユーザーストーリーがキホンのキ。
VEJが参加した時には、既に初期版のアプリでの実証実験がスタートしておりました。まだ、UIはデザインされていない状態でしたが、ボタンをタップするだけで簡単にビデオ通話ができる体験は高齢者のユーザーに好評でした。
さらなるUX向上を目指し、UIデザインに取り掛かりました。機能もシンプルなのでボタンデザインがUXに直結してくると考えました。存在感のあるリアルなボタンだったら、高齢者の方にも押しやすいはず。試行錯誤を繰り返し、いくつものボタンデザインを進め、デザイン的にも納得のいくリアルなボタンがいくつか完成しました。
そして、スワイプで通話先を選び「はじめる」ボタンをタップするだけで、通話が開始できる画面をデザインしました。
デザインをチーム内でプレビューしていくと、ユーザーストーリーがしっかり考えられていない点が浮き彫りになっていきました。
具体的には、ユーザーはスマホやタブレットの操作に慣れていない想定だったのに、大きめのカードをスワイプ操作する画面としたのが大きな問題点でした。
ユーザーの連絡先は複数あるかもしれない。高齢者の方が自ら発信し通話したいかもしれない。ならば、高齢者にとっては画面に表示する情報は少ない方がよいだろう。そこで考えたのが、ひとつのカードにひとつの情報を表示して、そのカードをスワイプする構成でした。
しかし、実際に利用されている現場から上がってきたのは、衝撃的なユーザーの声でした。
「そもそもスワイプができない」
確かにと思うところもありました。まずは操作ができなければ、通話が開始できません。最も重要なユーザーストーリーが抜けていました。実装イメージを膨らませていくなかで、このくらいだったら大丈夫だろうと、勝手に実装しやすい方向性にずれてしまっていました。
私がワイヤーフレームを作成して、デザイナーに依頼したのですが、このワークフローにも問題がありました。この時点でユーザーストーリーの確認や実現方法をディレクターだけではなく営業、デザイナー、エンジニアも交えて確認する必要があったのです。そうすることで、デザイン的な解決、システム的なアプローチ、運営方法による解決方法などの選択肢も増え、早い段階で良い実現方法が選べたと思います。
その後、医療現場への視察の機会をいただき、VEJチームも現場の声を聞くことができました。まさに100の会議より1回の視察だと痛感しました。とても重要な一歩だったと思います。
その視察であがったポイントです。
・家電のようにボタンを大きくする
・ボタンの数を最小限まで減らす
・ボタンを区別する呼び名をつける
・呼び出し音をつける
まだまだ開発の途中ですが、新しいことに挑戦して得られたことがたくさんありました。今回得た教訓は、受注の仕事でもいえること。最終ユーザーの声を吸い上げ「誰が・どういった目的で・何をしたいのか」というユーザーストーリーをしっかり考えずに、依頼を作業としてそのまま行ってしまうケースがあるのです。もちろん、すべて根本から考えつくっていくことは難しいですが、ものづくりの本質、キホンのキを常に忘れてはいけないと改めて実感しました。
戦略からビジュアルデザインまで
今回のプロジェクトでは、ペルソナ設定、ブランドの立ち位置、さらにはどんな市場を狙うのかといった戦略を立てる部分にも参加させていただきました。
「戦略/Strategy」
・ブランド/戦略的なアイデア
・ブランド・パーソナリティ
・市場
・問題は・・・
・ターゲット/こんな人たちに対して
・ターゲットはどう思っているか
・結果として何が起こるか
・機能的便益
・情緒的便益
練り上げた戦略をチーム全体が共有することは、プロジェクトを進める上で非常に有益だと実感しました。特に、コアとなる良いユーザーストーリーを共有することは非常に重要で、それをシンプルな言葉で表すのはなかなか難しい課題でした。
このように自分達でサービスの方針を考え、自ら役割を見出しプロジェクトにインパクトを与えていく仕事の仕方は、今までの仕事の考え方と大きく違っていました。積極的に自分ができることに取り組んでいくことで、仕事が広がっていくことを学びました。
そういった取り組みの中でとても嬉しかったのが、初期段階で作成したキャラクターの効果です。ITに弱い方にも親しみを持ってもらえるように、キャラクターがいた方が良いというアイディアから生まれたのがキャラクターの「スグニー」です。ベースのアイディアはマーケティングの渡辺さんですが、設定をダイゴさんがうまく形にしてくれました。
キャラクターのデザインのコンセプト
イエティみたいな毛むくじゃらなモンスター「スグニー」
・2足歩行
・お医者さん、看護婦さんにもなる
・ITに弱い
・イラストは平面的
・絵本的テイスト
・ミッフィーのタッチ(線の太さ、ミニマルさ)
キャラクターができたことで、アプリへの親しみやすさが格段に上がり、アプリのデモでも好感触を得られました。さらにチーム全体のモチベーションがあがり、ひとつのキャラクターがこんなにも開発にインパクトを与えるものなのだと驚きました。
新しいツールがもたらす新しいワークフローと考え方
今回、このプロジェクトへの参加にあたり、新しいデザインツール「Figma」を導入しました。
この新しいツールの導入が、プロジェクトチームに大きなメリットをもたらしてくれました。
連携のスピードアップ
今までは、「PowerPoint」でワイヤーフレームを書き、「Adobe系ソフト」でデザインをするなど、ディレクター、デザイナー、コーダーそれぞれのプロセスで違うツールを使っていたり、「Adobe XD」のように同じツールを使えてもファイルの共有に手間がかかったりしていました。
今まで
・ワイヤーフレーム(PowerPoint/Adobe XD)
・デザイン(Illustrator/Photoshop/ XD)
・コーディング(Photoshop/ XD)
↓
現在
・ワイヤーフレーム(Figma)
・デザイン(Figma)
・コーディング(Figma)
「Figma」ではクラウド上の同じファイルを共同で閲覧、編集するためシームレスな進行ができました。まさにコラボレーションインターフェイスデザインツールの名の通りです。
我々は「Figma」をアプリ開発プロジェクトに限らず受注WEB案件でも積極的に活用していきました。クライアントへの構成確認後、すぐにデザイナーがデザインに入ることができますし、デザイン確認後のコーダーへのパスもスムーズかつスピーディーに行えるようになりました。今ではクライアントプレビューからコーディングまで、同じファイルを共有しながらプロジェクトが進められるようになりました。
深まった技術的知識の共有
毎週記事コンテンツのアップを行なっているサイトでは、再利用可能なデザインコンポーネントを「Figma」で管理することで、通常の更新業務の効率もアップしました。
さらに、「Figma」とサイト実装に差分があった運用を改善するためのミーティングが行われました。デザインがどのような構造で実装されているのかの説明と、差分を作らない対策を検討し改善を進めることができたのも非常に良かったです。
ディレクターとデザイナーは「Figma」導入時にアトミックデザインの概念やVariants機能を学習したので、コーダーが実装する時の考えを理解することができたんだと思います。今まで以上にディレクター、デザイナー、コーダー間のコミュニケーションが深くなったと感じました。セッティングしてくれたミュウちゃんや、とてもわかりやすく説明してくれたタスクさんにも感謝です。
ひとりひとりが自分の役割を超えて知識や技術を学び理解して、より良いアウトプットにするための行動をするチームこそ最強です。
そんなチームをスタッフとつくっていきたいです。
挑戦をして変化した仕事への姿勢
VEJにご依頼いただいているお仕事の多くは、ご要望やご希望をお聞きして制作するものです。
私たちは長年、そういった依頼を受けるお仕事をしてきました。その中でいつしかクライアント様のご要望が一番のユーザーストーリーであるというような、受け身の思考が強くなっていたんだと思います。この姿勢を少しでも変化させ、ご依頼いただいた制作物が、いつ、どこで、どのように、どんな目的で使われ、どんなインパクトを作り出したいのかをもっとお客さんと一緒に考えつくっていきたいです。
今回の挑戦は当たり前になっていた仕事への姿勢を、再度考え直すきっかけをもたらしてくれました。この挑戦のみならず、VEJではさまざまなことに挑戦しています。そして、これからも挑戦を続ける事で新しいVEJの価値を提供していきます。
文: 池田 篤
CEO