本当のきっかけはSF小説の世界
VEJ代表の池田篤が新たなサービスを考えていたときのことです。映像部の大滝晶子が「ARをやりましょう」と声を掛けました。「はじめは『あーそうだね』と聞き流していたんですよ(笑)。ところが、大滝がTangoというGoogleが開発していたAR技術を教えてくれると、そこにVEJが目指すべきものがあるかもしれないと感じました。さっそくTangoが搭載された端末で何ができるのかを確認して、ウェブ事業部の坂本丞に画面上にオブジェクトを置けるテストサンプルを実装してもらいました。そこでVEJ独自のアプリケーションを開発できるかもしれないという手応えがあったんです」(池田)
Tangoはサポート終了してしまいましたが、現在はAppleのiOS用に開発されたARKitというAR技術を活用中。池田と大滝と坂本の3人は国内外のエンジニアと共にアプリの開発を進めています。
「私は単にSF好きというミーハーな気持ちが大きかったんです(笑)。ウィリアム・ギブスンという大好きなSF作家がいて、彼が90年代に発表した『ニューロマンサー』という作品の中では、サイバースペース(電脳空間)という言葉が出てきて、それは完全に仮想現実の世界に近いんです。90年代に架空だったことがいま実現できるようになって、単純にすごいなと思っていて」(大滝)
「個人的にも新しいモノが好きなので、プラスになっているというか。今は実装のフェーズが終わったので、次は売っていかなきゃいけないフェーズ。新しい技術が出たら何かをやるのではなく、みんなでそこに可能性を見出して新規事業を追っていきたいですね」(坂本)
自分の世界を拡張するためのコンテンツづくりを
ARと同時にVRのアプリ開発にも着手しました。実際にクライアントワークとして導入されたものもあります。
「VRとしては鶏肉の精肉を行う企業用のコンテンツをつくりました。その会社では自動精肉機械を製造しているんですが、クライアントの工場に設置すると、自社に実機がないから営業のときにデモンストレーションできないんです。加えて食肉工場は衛生管理が厳しいのでそもそも工場見学が難しい。なんとか工場見学をさせたいということで、工場内を360度見渡せる仕様で開発したという。ARコンテンツとしては、医療展示会用に歯科医院の治療機械のサイズ感などをイメージできるアプリを開発しました」(池田)
開発したアプリを企業にプレゼンテーションする機会が増えたことによって、利用シーンの実用性を見つめ直すきっかけにもなりました。そこから生まれたものがVEJオリジナルのAR専用デバイスホルダーです。「プレゼンテーションしたときにカメラを隠しちゃったり、不安定でうまく平面にならないことが続いたのでホルダーを作ったんです。ユーザー視点で考えてもグリップがあったほうが明らかに便利なので」(池田)
今後はARコンテンツのプラットフォームとして『VEJ AR Place』というアプリの開発を進めています。これはアプリを起動してコードを入力すると、その企業専用のコンテンツをダウンロードできるというもの。これからさらにARやVRへの注目が高まることが予想されるなか、VEJは実用性にこだわった開発を行っていきます。
「ARはエンタメの印象が強いですが、もっと日常生活に便利なものであるべきだと思うんです。私は子どもがいるので、教育に活かせることも大事だと思います。子どもたちの可能性を広げるだけでなく、先生たちの業務を軽減できる手助けにもなればいいなと」(大滝)
「僕らは8Kのクオリティで企業のプロモーション映像をつくれる。VRに関して言えば、それを知らせるための土壌を整えていきたい。技術が高まっていくと、映像や写真、テキストなどの質が問われてきます。たとえばARでは、見たことも触ったこともない国宝の茶碗を再現できるわけですよ。でも、そこにリアリティがないとチープじゃないですか。ただ画面に物が置かれて驚くのではなく、自分の世界を拡張するためのコンテンツをつくっていきたいですね」(池田)